八岐大蛇が酔ったお酒「八塩折の酒(やしおりのさけ)」

八岐大蛇が酔ったお酒「八塩折の酒(やしおりのさけ)」 Column
八岐大蛇が酔ったお酒「八塩折の酒(やしおりのさけ)」

八塩折の酒(やしおりのさけ)は、「古事記」「日本書記」の中に登場しますが、今日はこちらのお酒のことを皆さんと語りたいと思います。お酒好きには昔のお酒づくり、興味ありませんか?一体どんな味だったのか飲んでみたくなりませんか?

八岐大蛇伝説
八岐大蛇伝説

素戔鳴尊(すさのおのみこと)の大蛇(おろち)退治は、皆さん神楽を通してよくご存じだろうと思ういますが、改めてご紹介。

素戔鳴尊が出雲へ追放されて、浪々の旅をして、足名椎(あしなづち)と手名椎(てなづち)というおじいさん、おばあさんに出会います。おじいさん、おばあさんが嘆き哀しんでいるので、わけを聞くと、悪い大蛇が娘たちを次々にかみ殺して飲み込んで、最後に一人しか残っていないということでありました。

素戔鳴尊は、その残っている最後の奇稲田姫(くしなだひめ)をわが嫁にしたい、嫁にすれば天敵である大蛇を退治しようということをおじいさん、おばあさんに申しでて、大蛇退治の作戦を話します。

その「古事記」のくだりです。
「なれども、八塩折りの酒を醸み(はみ)、また垣を作り廻し(つくりもとほし)、その垣に八門(やかど)を作り、門ごとに八さずき(やさずき)を結ひ、そのさずきごとに酒船(※酒を入れる器)を置きて、船ごとにその八塩折りの酒を成りて(もりて、※「成」は「盛」の古字)待ちてよ」(引用:新潮日本古典集成「古事記」西宮 一民 校注 P.55より)

「八塩折の酒をはんで、それを酒船において、それぞれの場所へ置け」という意味です。
それを大蛇が飲んで、酔っ払って眠ったときに切りつけるという物語が大まかなあらすじです。
興味深いのは、「酒を醸み」という表現。醸み(はみ)という字を使っているので、一世を風靡したアニメ新海 誠監督「君の名は。」でも主人公がご神事の際に、「口噛み酒(くちかみざけ)」をつくっていたのも記憶に新しいが、『古事記』の時代からやはり口噛みというイメージはあるのだろう。。。実際にこの方法がなされていたかは別として。
「口嚙み酒」は、「米などの穀物やイモ類、木の実などを口に入れて噛み、それを吐き出して溜めたものを放置してつくる酒」のこと。

口噛み酒、興味あります
口噛み酒、興味あります

この「八塩折りの酒」は、その名からも製法を推して知ることができます。「八」は「八百万(やおろず)」でも知られるように「数が多いこと」を表しています。「塩」は「熟成した醪(もろみ、※醸造工程においてできる副産物=酒かす)を絞った汁」を指し、「折」は「何度も折り返す、つまり繰り返すこと」を指します。

最初のお酒をつくり、粕(かす)をとりのぞいて、そこに再び原料を入れてお酒をつくり、また粕を取りのぞいて・・・と、何度も酒造りの工程を繰り返したお酒が「八塩折りの酒」であることが分かるのです。

八岐大蛇が飲んだお酒が本当のところどんなだったかは謎に包まれていますが、前後不覚となって倒されてしまうほど美味しいお酒だったのでしょう。

興味深いことに、この酒で酒を仕込む製法は、近年になって出回るようになってきた「貴醸酒(きじょうしゅ)」というお酒の製法とよく似ています。独特のとろみのある甘口の日本酒です。

貴醸酒の原料は米なので、忠実には違いますが、ロマンを感じて飲めそうです。

実際にそれをイメージして作っている酒造さんがありました。

木次酒造さん(きすきしゅぞう)の「おろちの舌鼓」がそれにあたると思います。
原料米:コシヒカリ・稗・粟・黍・麦と穀物が原材料になっています。
説明:ヤマタノオロチ伝説ゆかりの地で作られた米と神話の世界をイメージする雑穀を使用した、超辛口、アルコール添加なしの五穀入りにごり酒生です。滑らかな口当たりと、しっかりとした穀物の旨味と甘みを味わっていただけます。(HPより抜粋)

そして、もう一つ。

國暉酒造さん(こっきしゅぞう)の「八塩折」というそのまんまのネーミングのお酒があります。
説明:八塩折(特殊醸造)
「古事記」「日本書紀」や「出雲風土記」の記載などから日本酒発祥の地と云われる島根。
記紀に登場する素戔嗚尊がヤマタノオロチを退治する神話。日本酒の歴史、起源に関わり地元島根が舞台となっているこの「八塩折の酒」を再現したいという思いで、試行を繰り返し、独自のアプローチで再現しました。
醸した酒で仕込んでは搾り、仕込んでは搾り、濃度調整を一切せず、何年も掛けて再仕込を何度も繰り返した極めて希少な逸品です。(HPより抜粋)

八岐大蛇が酔ったお酒「八塩折の酒(やしおりのさけ)」
八岐大蛇が酔ったお酒「八塩折の酒(やしおりのさけ)」

想いを馳せて、味わってみたいお酒です。
他にもこんなお酒あるよ、と知っている方いましたら、ぜひお便りで教えてください!

次回は備中神楽の「八重垣の能」の酒造りの場面についてコラムを書けたら…と思っています。

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